<尾鷲よいとこ定食の店>
このコラムは、漁港の町で地魚料理を味わう冊子 「尾鷲よいとこ定食の店」との連動企画です。「尾鷲よいとこ定食の店」掲載店を訪ねて回ります。
第10回目は、「割烹 田舎(かっぽういなか)」さんを訪ねました。
紹介するのは、田舎定食(800円)。ちなみに献立は日替わりです。
<割烹 田舎の田舎定食>
「今日とれた旬を、この人の料理で味わってみたい」
海と山のゆたかさと、料理人の懐の広さを垣間見せてくれるのが、「割烹 田舎(かっぽう いなか)」の田舎定食。
割烹 田舎は、尾鷲駅から徒歩3分のところにあります。
この日の田舎定食は…
目利きが感じられるぷりっぷりのヒラメ刺身。南蛮漬けと、もみじおろし和えのタタキでいただくアジ。春の訪れを告げるタケノコとフキの煮つけは、港町うまれの保存食“生節(なまぶし)”が味にコクをうむ。ホロホロとした焼き加減のサワラバター焼き。人柄がにじむ卵焼き。ばあちゃん家に来たようなぬか漬け。
山嵜正夫(やまざき まさお)さんは、和歌山県・南紀白浜町に生まれ、全国各地で料理人として腕をふるってきた。その後、田舎をはじめられた。
(板前の大川洋史さんと)
「20、30代に割烹の暖簾をくぐってほしい」。おかみさんの提案で、田舎定食をはじめた。山の幸も海の幸も盛りだくさんで800円というから、もちろんファンも多いけれども、取材を申し込むと、一度は渋い反応が返ってきた。
「田舎定食は入り口。そこから広がる奥行きを知ってほしいよ」
それは、この海でとれる旬の魚がほんとうにうまいこと。料理は、その命を人へつなぐ仕事であること。
「カサゴだったら、うすく切って活け造り、天ぷら、潮(うしお)汁。一つの魚から、お父さんはなんでもつくれるんさ」とおかみさん。これまでもお客さんの「食べたい」という声に応え、時に意外な料理で、舌をうならせてきた。
たとえば伊勢海老。定番はつくりだけれども。田舎では、天ぷらを提供することも。
東京よりもぐんとお手頃で、味がぐんとおいしい。そうお客さんに驚かれるのが、フグ。
春はイサギ、鯛、ヒラメ。夏はハモ、メイチダイ。自家製のカラスミも。
田舎定食をきっかけに、2度目は個室を予約して訪れるお客さんもおおい。
そしてやっぱり、食は一期一会。そうおもう場面が、あった。
「特別だよ」とおかみさんが出してくださったのは、オニエビ。
尾鷲には、底引き網のエビがある。足がきわめて早いため、ほとんど外に出回ることがない。
「ミソがおいしいのよ」と。ところが、ぼくはエビ(やカニ)のミソの生ぐささが大の苦手。でも… 思い切って口に入れると、「うまい」。言葉が漏れていた。
そのとき初めて気づいたこと。実は、ミソが好きだってこと。都会に暮らしてきたぼくは、ついさっきまで海で生きていた、エビに出会えていなかっただけ。
さいごに、おかみさんがこんな話を。大阪の娘さんに魚を送ると、こう電話がかかってきた。「味が別物よ」。クール便で、水揚げされた翌日に届けたというのに。
「だから食べに来てほしいんさ」
旅をするから出会える味が、尾鷲にはあります。
<お店の情報>
割烹田舎(かっぽういなか)
住所 三重県尾鷲市野地町12-27
電話 0597-22-8868
営業時間 11:00~14:00/16:00~22:00
営業日:不定休/席数:80席/駐車場:15台
アクセス:南ICから車で5分。尾鷲駅から徒歩3分。
(写真と文 大越元)