尾鷲のつくり人vol.3(中山商店)

尾鷲のつくり人

 

 

夢古道おわせでは、9つの約束に基づいた商品を販売しています。このコラムは、それらの商品のつくり人を訪ねます。

 

<中山商店の生節(なまぶし)>

 

 

スマホで “なまぶし”と入力すると、「生武士」と変換された。でもこれ、あながち誤変換とも言いきれないかも。

 

さかのぼること約500年。戦国時代の武将・北条氏綱は、かつおぶしを重宝したそうな。その理由は、「勝男武士」という語呂にある。

 

かつおぶしは、江戸時代に入ると、結婚式の引出ものとしてふたたび重宝される。昭和に入ると、国民的アニメ「サザエさん」一家の名前に。あのメロディがテレビから流れ出すと、日曜の終わりを感じる人も多いのでは。

 

あらためて日本人との関係を考えると、カツオは単なる食料にとどまらず、日本人のこころに寄り添ってきた魚ともいえそう。

 

そんなカツオの加工品といえば、カツオ節が浮かぶ。水揚げされたカツオをおろし、煮て、骨を抜き、5〜11回ほどいぶし、天日干し。

 

時速30kmで海中を泳ぐカツオは、体の70%が水分。水分を15%まで飛ばし、旨味をぎゅっ!と凝縮する。

 

いぶしの工程を一度だけ行うのが、「生節(生利節=なまりぶしとも)」。

 

 

表面は燻製のような香ばしさがありつつ、身はしっとりとした味わい。例えるなら、魚のベーコンといったところでしょうか。

 

 

<中山商店さんを訪ねる>

 

ここは尾鷲市の朝日町。おわせ精肉の看板を曲がると、右手に中山商店が見える。創業は、明治初期。

 

 

 

はじめに、“ハラモ”と呼ばれる薄い腹の身と内臓を取り出して、2枚におろす。その身を煮て、骨を取り、いぶす。

 

背中が雄節(オブシ)、お腹が雌節(メブシ)。合わせて縁起が良いことから、引出ものに。

 

なお、いぶす木はなんでもよいわけじゃない。最近ではホームセンターで燻製用のチップなども販売されて身近になったけれど… 尾鷲では、ウバメガシが用いられる。

 

 

紀伊半島に多く自生するウバメガシは、焼鳥屋さんで用いられる紀州備長炭の原料木。火の力がつよく、持ちが良いため、生節に最適!(ウバメガシってどんな木?サンプルを見たい方は、熊野古道センターもしくは尾鷲市立中央公民館へ)

 

いぶした生節は食べやすいように小骨を取り、両端を切り落とし、包装されて商品に。

 

 

仕上げの工程を行いながら、中山商店さんではたらく方に話をうかがった。

 

-小さい頃から生節を食べていましたか?

「うちは漁師だったしね、よく食卓にあがっていましたね」

 

-各家庭でつくるんですか。

「ううん、ここのを買ってたんです」

 

-どう食べるのがおすすめでしょうか?お客さんから「食べ方がわからない」と言われることがあります。

「細かく刻んで、マヨネーズと醤油ね。好みと気分で一味唐辛子をかけてもいい。お酒のアテに最高よ」

「これからの時期(春)はね、タケノコやフキと一緒に煮るの」

 

-あー。この前「割烹 田舎」さんで、いただきました。

 

アジの南蛮漬けの隣です

 

「そうそう!尾鷲の人は好きね。灰汁(アク)抜きして、水煮したタケノコと生節を一緒に煮ます。生節は、出汁がとれて、身も食べられるの」

 

「夏になると、くき漬けね」

 

-くき漬け… 夢古道おわせの売店にも並びますね。芋の茎でしたっけ?

「そう。ヤツガシラの茎“ズイキ”を塩と赤ジソでつけた、東紀州の漬け物。6ー9月が旬なのよ。細かく刻んで、ほぐした生節とまぜて醤油を垂らして。食欲がないときでも食べられるよ。生節は、くき漬けの相棒。尾鷲では、親戚にセットで送る風習もありますよ」

「それからね… 新玉ねぎをスライスして(辛かったらすこし水に浸して)、生節を乗せて。マヨネーズで和えるとこれまたおいしい!」

 

ほんとうにおいしそうに話すんです。つられてお腹が鳴ってくる。

 

-なるほど、シーチキンの要領なんですね。

(ここで従業員の方が通りがかりに)「うまいっすよね。僕は大根おろしとポン酢で食べます。身がしっかりしているから、肉っぽい感じかな」

 

-魚版の冷しゃぶといったところかな。みなさんそれぞれに、食べ方があるんですね。

ところで、生節をきれいに切るコツってありますか?

 

「うすめに切ると、どうしても崩れやすいんだよね」

 

 

 

「ちょっと厚めに切るといいのよ」

 

 

-あっ、きれい。

「でも、手でほぐすのが一番おいしいのよ。こうして… 」

 

 

「あとね、この切り落としがおいしくて… 午前中に作業が終わると、お腹がすいてくるでしょ?ついつい食べてしまうのよ。これでマヨネーズと醤油があったら、もう飲みたくなってくるわね… 」

 

「止まらないねぇ」と、ぼくもポリポリいただきました。

 

この後も、工場には、こぼれ話が満載。カツオの心臓を焼くとコリコリした食感が味わえるとか、カツオの骨からとった出汁がおいしいとか…

 

夢古道おわせから車で10分弱の中山商店さん。直接訪ねなければ、手に入らない商品もある。生節をつくる際に、取り除いたカツオの内臓は酒盗に。腹の身は、ハラモの干物に。 これ、ちょっとしたレアもの。

 

尾鷲の人たちは、カツオとの付き合い方が上手なんです。

 

<中山商店さんをあとに>

 

ところでみなさんは、生節を食べたことがありますか?日本全国の港町でつくられる保存食ですが、尾鷲市を含む紀州(和歌山・三重南部)は、土佐(高知県)、焼津(静岡県)とならび日本の三大産地とされます。

 

土地によって、味わいも変わるかもしれません。食べ比べてみるのも、楽しみではないでしょうか。

 

 

<後日談>

 

中山商店さんからの帰り道、スマホで調べてみると、1990年代には全国で1万トンの消費量がありましたが、現在は半減しています。生節は高齢者だけでなく、地元の20、30代にも食べられているのだろうか?

 

生節のことをもっと知りたくなり、尾鷲市立図書館へ向かってみます。

 

 

カウンターで職員さんに「生節について書かれた本はありますか」とたずねると、次々に本を持ち寄ってくれました。

 

応対がていねい。この時点で、「あー、いいまちだなぁ」とおもう。

 

そして、こんな話を聞かせてもらいました。

 

「夏にくき漬けと食べるのが最高です」「薄くおろして、なまの生姜で食べて…」「子どものころより食卓に上がることは減ったし、常備しているわけではないけれど、春先はかならず買いますね。タケノコやイタドリと炊くのが春の訪れ」「わたしはタケノコとイタドリを分けて炊くな。タケノコはすこし濃い味で…」「煮ると、料理にすこし魚らしさが出る。魚が食べたい日は生節で味噌汁を・・・豚汁の魚版です。さっぱり食べたい日は、かつお節。つかいわけて」

 

なぜかみんな、生節の話がはじまると笑顔なんです。

 

尾鷲市内を南北に走る国道42号線沿いには、マクドナルドも、すき家もあります。全国チェーンがありつつ、生節というローカルフードも食べられている。それが、尾鷲の食卓の今でしょうか。

 

尾鷲を訪ね歩き、食文化を調べる。それは、ここだからできる遊びだとおもいます。このまちにはまだまだこういう遊びが、眠っているんです。それを掘り起こせるかどうかは、ぼくたち次第です。

 

<中山商店の情報の情報>

住所 三重県尾鷲市朝日町5−3

電話 0597-22-0707

平日8:00-17:00

 

(写真と文 大越元)

参考文献
カツオの産業と文化/若林良和
「ふーどら 2012春号」
とれとれの魚/川口祐二
三重の食文化/三重食文化研究会
東紀州の食卓/東紀州地域活性化事業推進協議会
みきさとのうまいもん/尾鷲市元気プロジェクト三木里地区会

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