スポットvol.3(しお学舎)

<サーファー、塩職人になる>

<スポット>
約1.8万人が住む三重県尾鷲(おわせ)市。人口の約8割が住む中心市街地と、9つの浦(うら=入り江のちいさな町)からなります。このコラムでは、尾鷲市およびその周辺にあるスポットを紹介していきます。

第3号は、尾鷲市古江町(ふるえちょう)にあるしお学舎へ。

 

夢古道おわせに来たことのある方は、塩かけホーダイ!のソフトクリームをご存知ですか?あの塩をつくっているのが、しお学舎さんです。“学舎”という名前は、尾鷲市古江町にある海辺の廃校を活用したことに由来。海洋深層水をもとに、塩をつくっています。

 

<しお学舎>

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「おーい!ここ」
12月1日、15時30分。約束の時間にしお学舎を訪ねたものの、尾上(おのうえ)教頭の姿は見えない。

「おーい!ここ」
声は、海水をグツグツ煮詰める立釜(たてがま)から聞こえる。

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ヘルメットをかぶり立釜の中をのぞくと、尾上さんが製塩後の洗浄をしていた。首筋には汗玉がにじんで見える。

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あなたの家の台所にある塩の裏ラベルを見返してみてください。日本の製塩のほとんどは、イオン交換膜という製法を用いています。これは、海水から塩分のみを抜き取る方法です。そのため、成分表示が99%以上塩化ナトリウムとなる。

 

いっぽう、しお学舎では、海水をグツグツと火で炊いていきます。水面415mの海底から汲み出した海洋深層水。地上の環境変化の影響を受けにくく、ミネラル(ミネラルのほうがわかりやすいかと思うのですが、正確に“無機栄養塩類”と表記したほうがよいでしょうか)が豊富な海水です。

 

タイマーが鳴ると、190センチ近くある尾上さんが、釜から出てきた。

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「うちの塩は、ミネラルがたっぷりあるやん。それが結晶化していくと、釜の内側にビターッとつくわけ。これをどう掃除するかが、塩づくりの一番大変なところかもしれない」

「薬品で溶かすこともできるんやけど。ここ、海に直結してるもんで。汗だくになって、手でこそげ落とすわけ」

 

尾鷲市出身の尾上さんが塩職人になったのは、しお学舎が創業した2007年。当時35歳。

18歳から30歳までは、サーフィンに明け暮れてきたという。

 

「高校卒業して入社した会社で、先輩からサーフィンを教わったのがはじまりです。モテる?というのもあって。まぁ、モテへんだけど(笑)。だんだんハマって。でも、大会出ても全然ふるわなくて。スタートが遅すぎたから、プロはきびしい。でも、サーフィン業界で、自分の居場所をつくれないかな?と思ったんです」

「25歳のときにワーキングホリデーで1年間オーストラリアに行きました。サーフィン三昧よ」

 

一年後に帰国すると、1年間の期間従業員として働きお金を貯めると、ふたたびオーストラリアへ。

「ずっと向こうに住むつもりでおってん。自分のショップを持ちたかったんです。でも、ビザの更新がうまくいかなくて。もたもたしているうちに、不法滞在者になってしまってさー。強制送還や(笑)ブラックスタンプっていうのがあるんよ。それもらったら、3年は入国できへん」

 

-それで帰国したんですか。

「どうしよう、って半年間実家でひきこもり。32歳やったんさ。尾鷲に残るか、都会に出るかを考えたわけ。どうするかなぁ、と。でもやっぱり何とか、この尾鷲に残れないかなぁと」

「じゃあ仕事はどうする?大きい会社はないし、サーフショップやっても、続かんわな。これは人脈つくらんと、と思って。三重県内の地域団体と行政をつなぐ嘱託職員を3年間続けたんかな。その後に、しお学舎立上げの話がありました。俺も、36になりかけのときやったから。人生どうするんや。失うものもないし、やりますかー。そこからは、なかなかね、人生砂糖のように甘くはなかったなぁ」

 

-しょっぱかったですか。

「しょっぱすぎたねぇ(笑)。何にもわかってなかった。事業として成り立たせていくことの大変さを。その時期を経て、塩事業と、加工事業の二本柱になってきたんです」

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「塩って主食には絶対なれないけど、大体の食品には使われているから、尾鷲産の食材と組み合わせて『甘夏塩サイダー』や『塩けんぴ』をつくってきました」

 

-「ぐっと旨くなるお塩」シリーズはどうやって生まれたんですか?

「手前みそならぬ手前塩やけど、僕は、うちの塩が一番おいしいと思ってるんよ。どうしたらおいしい塩がつくれるのか。沖縄や四国に、視察も行かせてもらいました」

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「でも、食べる人からしたら『塩は塩』やん。どうやったらうちの塩をつかってもらえるだろう?そう考えて、食べかたの提案をはじめたわけ。フライドポテト、魚、野菜… 一つひとつ、製法を変えてます。もちろん成分も違う。舐めてみると、きっと違いがわかる。個人的には『おにぎりがぐっと旨くなるお塩』がおすすめです。火入れしない分、味がまろやかに感じます」

 

-一般的な食塩と、どう違うんですか?

「塩分だけじゃなく、海水に含まれるミネラルの酸味、甘味、苦味があります。それらが食材とからみ合い、コクになるんです」

 

「今年、自然塩で梅干しをつけたんです。市販品の塩分濃度は大体10%。一般的な食塩をつかって、はちみつ入りもよくありますよね。今回僕は、おばあちゃんの梅干しを参考にしたんです。塩分濃度は20%。さぞしょっぱいだろうと思ったんですけど、味がまるく感じました。」

「どうしてもカビが生えやすくなるから、保存料を入れることになる。梅干しってもともと保存食なんだけどなー」

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-しお学舎さんは、つくることに加え、届けることに力を入れてますよね。この間、東京の友人がこちらへ来たときに「色々あるお土産の中で、しお学舎のパッケージが一番しっくり来た」って。

「ほんとはもっと目立つ色にしたいで。そのほうが人目を引くやん?でもきれいなデザインの商品はもう、たくさんあるやん。同じ海でも、たとえば横浜と尾鷲は全然違う。ぼくら尾鷲やから。塩を手にとってくれた人が『尾鷲?聞いたことなかったけど、どんなとこかな』『行ってみたい』。そう思ってもらえることが、一番の願いだったりします」

「実際に、見学に来てくれる人もいるんですよ。これはうれしい」

 

-見学はOKなんですか?

「もちろん。ただし、電話で確認の上で、お願いします!」

 

古江地区は、いわゆる観光地ではありません。民宿が一軒と、商店、魚屋さん、喫茶店が一軒ずつあるのみ。

よかったら、のんびりした時間を過ごしてはどうでしょうか。斜面に続く集落の路地裏を歩いたり、海辺でぼーっとしたり。アクアステーションで海洋深層水の話を聞いたあとは、しお学舎の見学へ。せっかくだから、お土産に塩を。実は、ここでしか手に入らない塩も色々あるんです。

 

<施設概要>
しお学舎(株式会社モクモクしお学舎)
住所:三重県尾鷲市古江町192
電話:0597-27-3030
見学対応時間:平日の9:30~16:00
※対応できない場合もありますので、電話確認の上、見学をお願いします。

(2016/12/3訪問 写真と文:大越元)

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