尾鷲のつくり人vol.1(山本木工所)

尾鷲のつくり人

 

 

夢古道おわせでは、9つの約束に基づいた商品を販売しています。このコラムは、それらの商品のつくり人を訪ねます。

 

<山本木工所の尾鷲ヒノキのまな板>

 

 

100円ショップでも手に入る、まな板。一応役割は果たすわけだし、「まな板なんて100均でいいやん」という考えかたも、アリかもしれないけれど。

 

山本さんのつくる尾鷲ヒノキのまな板は、美しい。リビングに飾ったら、まな板だとは分からないだろう。もちろん山本さんは「ちゃんと使ってください」という。使用すると、表面に傷がつく。「カンナで削ると、また新品同様になりますから」。

 

このまな板は尾鷲の山本木工所・山本昌(あきら)さん(83)がつくっている。

 

はじめてカンナを握ったのは15歳。船大工になった。その後、建具屋(たてぐや=しょうじ、ふすま、家具をつくる仕事)を30年間営んできた。尾鷲ヒノキに心底ほれこみ、「より日常生活に取り入れてほしい」という思いから木工所をかまえた。まな板、寿司桶、風呂いすをつくりはじめたのは昭和58年のこと。

 

「外材じゃダメなんだ」ときっぱり言いきる。「尾鷲ヒノキはすばらしいんです」。

 

ヒノキには、カジノールという油分が多く、水切れよい。くわえてヒノキチオール効果で、抗菌性が高い。つまり尾鷲ヒノキでつくったまな板は、ヨゴレが染みこみにくく、衛生的と言える。

 

 

まな板にする木は、最低でも50年生。急な山の斜面と、やせた土地。きびしい環境にあって、尾鷲ヒノキはコツコツ時間をかけて育つ。年輪の幅が狭く、木の強度は、一般的なヒノキの1.3倍ほど。

 

山から切り出された丸太は、製材所を経て、山本木工所へ。そこで半年間かけて、天日乾燥する。この工程を省くと、水分が変形や反りの原因になる。加工はそれから。「だから、注文を受けてすぐ出せるようにしようとするとね、ずいぶん手間がかかるんですよ、ハハハハハ」と山本さん。

 

長い下ごしらえの時間を経て、木がまな板になるのは、ものの10分ほど。

 

えんぴつで線をひき、横切り盤で木を裁断。

 

 

そして、自動かんな盤にかける。

 

 

 

最後に、水を含んだ布で湿らせ、手かんなで仕上げ。一連の作業は、10分足らず。

 

 

流れるような山本さんの手つき。「木は生きていますから。同じ木は一枚としてありません。まな板づくりは簡単で大変で、だから、面白いんですよ」。

 

あなたは今、どんなまな板を使っていますか?プラスチックのまな板も多いと思います。そうした中、山本さんが木のまな板をつくりつづける理由とは。少しだけ顔をこわばらせながら山本さんは、こんな経験を語った。「プラスチックのまな板を削るでしょう。それをね、火にくべたら真っ黒な煙出てきたんですわ」「ひのきはね。刻んでもし食べたったとしてもね、なんにも毒にならんですよ。まな板は、口に入れるご飯をつくる道具だから」。

 

子どもたちに尾鷲ヒノキに親しんでほしい。そうした思いから、山本さんの木工所には、毎年校外学習で尾鷲市宮之上小学校の子どもたちが訪れる。生徒たちは、まな板づくりを見学したのち、自らの手で尾鷲ヒノキの間伐材で工作を行う。

 

また、山本木工所のまな板は、プロの料理人たちにも愛用されている。

 

 

取材の帰りに、できたてのまな板を大小一枚ずつ購入して帰った。

 

そのまな板を見て、あまり料理をしない友だちに「どこで買ったのか」と聞かれた。小さいほうを一つプレゼントしてみた。よいまな板を手に入れることは、おいしいご飯をつくる近道なのかもしれないと思う。

 

よくよく考えてみれば。木の産地が見えて、かつ、つくり人の顔も見える。そんな尾鷲ヒノキのまな板って、とても豊かなことでは。一生もののまな板を、あなたもぜひ一度手にとってみてほしいです。

 

<山本木工所の情報>

住所 三重県尾鷲市坂場町2-1

電話 05972-2-1964

まな板の他に「すのこ」「表札」「風呂いす」なども製作しています。

*事前に予約の上、見学させていただくことも可能です。

 

 

(写真と文 大越元)

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