<尾鷲よいとこ定食の店>
このコラムは、漁港の町で地魚料理を味わう冊子 「尾鷲よいとこ定食の店」との連動企画です。「尾鷲よいとこ定食の店」掲載店を訪ねて回ります。
第6回目は、寿司処「江戸ッ子」へ。夕食に、お寿司屋さんの刺身定食はいかがですか。
魚には“熟成”という楽しみもありますが、江戸ッ子では「港町だから食べられるものを」と、獲れたてを提供しています。
地の人は“日本一”と話す黒潮に揉まれた筋肉質のブリ。ヨソモノが食べてもほんとうにうまいんです。銀の背が光るのは、今朝獲れのキミイワシ(九州では、キビナゴ)。ツルンとしたのどごしがたまりません。
江戸ッ子の営業は、17:30から。刺身定食は1,300円とお手ごろだからこそ、よければ握りもおすすめします。この日は、九鬼町の郷土料理を江戸ッ子風にアレンジした「豆アジの姿寿司」をいただきました。
<江戸ッ子の刺身定食>
江戸ッ子は、尾鷲駅から歩いて5分ほど。栄町の路地裏にあります。
訪ねたのは月曜日の18時。暖簾(のれん)をくぐると、すでに「ビールおかわり」の声が聞こえた。
お客さんの注文を受け、寿司からサザエのつぼ焼きまで料理するのが、“えっちゃん”こと、野間悦子(のま えつこ)さん。
「江戸ッ子が傾いたら、尾鷲が傾く。それぐらいの気持ちでやってるのよ」
店を切り盛りして、約半世紀。日課は水色のカブを走らせ、魚を仕入れること。休みは月1日。何よりの楽しみは、注文がひと段落したときにふと見る巨人戦と、生ビールだ。
江戸ッ子は、九鬼町出身の義弘(よしひろ)さんとはじめた店。壁には、半世紀の歴史が感じられる写真が並びます。その一つには、義弘さんの母が兄弟という坂本九さんの姿も。
2015年、江戸ッ子はえっちゃん一人で切り盛りするように。その姿を見て、ガソリンスタンドで働いてきた孫の凌(りょう)さんが庖丁を握った。
「店をお手伝いできたらと思ったのがきっかけで、料理に興味を持ちはじめたんです」
大阪の寿司専門学校で学んだのち、江戸ッ子の付け場に立った。
日中は勤めに出つつ、夜は江戸ッ子でお客さんを迎える二足のわらじ。また商工会議所青年部の一員として、尾鷲を盛り上げる活動にも取り組む。そんな凌さんは、2016年に成人式を迎えたばかり。
以前は、特にまちのことも考えていなかったと話す。
「ここに立っとったら、たくさんの人が尾鷲を楽しくしたいと考えていることがわかった。ぼく自身も『子どもから年寄りまで楽しめるまちにしよう』と考えるのが楽しくなってきたんです」
凌さんに寿司を握ってほしい。そう思っていると、カウンターの常連さんから「豆アジの姿寿司をぜひに!」と声がかかった。
豆アジの姿寿司は、尾鷲市九鬼町の郷土料理「アジの姿寿司」をベースとしている。内臓を取り除いたモジャコ(尾鷲弁で豆アジ)を酢漬けにすることで、目でも味わえる。
頭からがぶり、といただく。ひと手間加えたお酢でしめたアジに、薬味のカラシが妙。
紀伊半島の気候風土から生まれた寿司として挙げられるさんま寿司(熊野灘沿岸)、柿の葉寿司(吉野地方)に並んで味わってほしい逸品。
豆アジが旬を迎える初夏から、例年1月上旬ごろまで提供しているとのこと。ぜひ召し上がってみてください。
と・・・すでにお腹は一杯だったけれど、メニューボードの「だしまきサンド」がどうしても気になる。明日の朝食用に、持ち帰りをお願いした。
全国で厚焼玉子サンドイッチのブームが訪れる中、寿司屋ならではの出汁巻玉子をサンドイッチに試みた一品。
「一つ、出来立てを食べてみない?」とえっちゃん。
これがまた格別でした。
この日は、カウンターならではのいいハプニングがありました。カウンターで肩を並べていたのは小倉裕司(おぐら ゆうじ)さん。名古屋からUターンした26歳です。
小倉さんは10月15日に熊野古道センターにて「おわせマルシェ」を開催予定。家業の会社を継ぎながら、土日を返上して、マルシェの準備に奔走していました。
尾鷲のこれからをつくろうと、江戸ッ子の凌さんとも協力しつつ、活動しています。この日は、尾鷲に対する思いを聞かせてもらいました。
「尾鷲ってね、本当に一人一人ががんばっているまちなんです」「ここだからできることを見つけたくて」「網干場をはじめた豊田宙也さんのように、外から来た人に学ぶことも多いんです」「実は、外からの声ももっと必要としているんです」
江戸ッ子を出ると「もう一軒行きましょう」とスナックへ。ユニコーンを歌いながら、まちの話はまだまだ続きます。
<お店の情報>
江戸ッ子
住所 三重県尾鷲市栄町6−9
電話 0597-22-2666
営業時間 17:30-24:00
営業日:不定休(月1回)/席数:40席/駐車場:1台/尾鷲北ICから車で3分。尾鷲駅から徒歩5分
(写真と文 大越元)