尾鷲よいとこ定食の店vol.2(野生のランチ)

 <尾鷲よいとこ定食の店>

このコラムは、漁港の町で地魚料理を味わう冊子 「尾鷲よいとこ定食の店」との連動企画です。夢古道おわせ支配人の伊東将志(いとうまさし)と、「尾鷲よいとこ定食の店」掲載店を訪ねて回ります。

第2回目は、尾鷲小学校裏にある「葉っぱがシェフ」さんを訪ねました。店名の通り、この店のシェフは裏山に自生する葉っぱです。

 

<葉っぱがシェフの縄文ランチ>

カサカサと、野草をかき分けながらいただく食事。

 

「葉っぱがシェフ」=カサカサと、野草をかき分けながらいただく食事。

 

ここは、尾鷲市内にある「葉っぱがシェフ」。店名の通り、裏山に自生する葉っぱがシェフを務めるレストランです。

 

料理に用いる道具は、妻・実鶴さん手製の陶器、熊野灘の石、裏山でとれた野草。食材となるのは、尾鷲で水揚げされた魚介類たちと、三重県御浜町で育てられた紀州岩清水豚。尾鷲の海洋深層水を原料にした自家製塩のみで味つけします。

 

…と、ここまで書いたものの、実際に食べるまでは、味の想像がつきませんでした。

 

葉っぱがシェフレストラン看板

 

尾鷲駅からは、徒歩10分。尾鷲小学校近くの住宅街に、山小屋のような建物がたたずんでいます。

 

葉っぱがシェフ外観

 

玄関を開けると、ご主人の平山浩介さんが迎えてくれる。

 

片手には、裏山から採集した葉っぱ。チャノキ(茶の木)、クマザサ、シナモン、アシタバ、花みょうが、杉… これらを料理に用いるという。

 

「このお店のシェフは私たちではなく、葉っぱです」

 

一体どういう意味だろう。そう思いながら、縄文ランチの魚介と紀州岩清水豚を注文しました。料理を待つ間に、裏山を散策。よく見ると、あちこちに植物が自生している。室内へ戻ると、しょうがのような香り。「花みょうがです」と平山さん。

 

 

花みょうが

 

こちらが、今日のメインディッシュ。

自家製の陶器の上に、熱した石と葉っぱが敷きつめられている。その上に尾鷲産のカマス、ガスエビ、アカイカ。もう一皿には、御浜町産の紀州岩清水豚。

まずはカマスをいただく。ふっくらとした白身に、野草の香りが乗ってくる。めずらしい魚ではないけれど、はじめて食べたように感じる。

密に身がつまった豚肉は、こりこりとした食感。「ブロック肉を熟成し、ハムへ加工する過程のものなんです」と平山さん。

 

葉っぱがシェフ 自家製ハム

 

魚も肉も、油をつかわずに調理をするため、しつこくない。余熱をいかすことで、素材の味が引き出される。そこへ、野草の香り。素材のくさみをとりつつ、全体を風味づけてくれる。

 

香草をふんだんにもちいたフレンチを思わせるけれど、同時に、箸を置いて手で食べたくなる、そんな力強さがある。今まで食べたことのないおいしさに、ちょっと戸惑う。

 

ご主人の平山浩介さんと、調理を終えた実鶴(みつる)さん。二人に話を聞きました。

 

オーナーの奥さん

 

-どうやってこの料理が、はじまったんですか。

 

「お店をはじめたのは12年前です。最初にお話ししておくと、開店当初と今では、まったくと言っていいぐらい、料理が変わりました。」

 

「真っ暗の中、山登りをしてきたような12年です。はじめに、なんとなくのイメージだけはあって。あとは毎日毎日手探りで、岩を見つけては手を伸ばしていく。その繰り返しで、少しずつ今の料理に近づいてきました。」

 

 

調理の出来を左右する葉っぱたち

 

「わたしはずっと陶芸をしてきました。あるとき、底に穴の開いた陶器をつくったのが、はじまりです。そのままエビやカニを焼くには、熱量が弱かった。熊野灘の石を焼いて、陶器に置いてみると、今度は魚が焦げてしまう。じゃあ、ということで、石の上に葉っぱを敷きつめました。」

 

「昔から葉っぱが好きだったんです。家でお茶の葉を煎るときに、釜から香りがひろがるんですね。「もしかしたら」という期待もあって。やってみると、きれいに火が通る上に、素材に葉っぱの風味が乗りました。」

 

「肉や魚の匂いをきつく感じることがあるんですが、葉っぱを組み合わせることで、お互いが引き立て合うんです。お寿司の下に敷く葉蘭(はらん)、柑橘の葉、ビワの葉… どんどん深みにはまっちゃって。」

 

 

-葉っぱの組み合わせは、料理によって変えるんですか?

 

「そうです。今日の魚料理にはつばき、アシタバ、花みょうが… 和の野草を中心に組み合わせました。」

 

「尾鷲は、新鮮な魚が手に入ります。ブリやマグロはもちろん、市外に出回らない少量しか獲れない魚も。仕入れては、すぐに葉っぱで焼いてみるんです。わたし自身は、料理のプロではありません。調理学校に通ったわけでも、飲食店で働いた経験もない。ただ、気づいたら夢中になっていました。」

 

-プロの料理人は、どんな反応をするんでしょうか。気になります。

 

「尾鷲出身のイタリアンシェフが来てくれたことがあります。ちゃんと調理学校に通い、レストランで下積みしてきた方でしたから… 正直とても緊張したんですけれど。「ずっと自分が料理だと信じてきたものを、考え直す機会になりました」と感想をくださいました。本当にありがたかったです。」

 

 

調理の出来を左右する葉っぱたち

 

-葉っぱには、香りづけ以外の作用もあるのでしょうか。

 

「毎日食べる中で、自分の体が整っていく気がして。どういうことだろう、と調べました。一つひとつの植物に作用があるんですね。たとえば、カマスに用いた花みょうがは、古くから胃腸薬の原料になったそうです。」

 

「繰り返し訪れてくれるお客さんの中には、医療関係の方もいて。専門家から見ても、面白い料理だと話してくれます。」

 

 

-医食同源って言葉がありますね。

 

「おいしく食べて、結果毎日元気で過ごせる。食事って、もともとそういうものだったのかなと思います。」

 

 

葉っぱがシェフのワンプレート

 

-話を聞けば聞くほど、都市部からわざわざ訪れるお客さんが多い気がします。

 

「そうですね(笑)。大阪から名古屋から、泊まりがけで来てくれる方も少なくありません。」

 

-向こうにはフレンチ、和食、中華… どんな料理も揃っているはずなのに。

 

「なにかが満たされないんでしょうか、グルメでは。尾鷲の魚、裏山の葉っぱ、この空間。ここへわざわざ来ることで、思い出すことがあるような気がします。」

 

 

葉っぱシェフの裏山

 

「話は変わるようですけど。ほんとうはね、もっと尾鷲の人にも来てほしいんです。」

 

-地元の人に。

 

「ここでの生活は、おいしい魚がふつうだから。刺身、塩焼き、煮つけといった調理が好まれます。でも『こんなおいしいカタクチイワシ、食べたことなかったよ』と言ってもらうこともあります。」

 

-何が違うんでしょうか。

 

「イワシもね、まな板に乗ったら食材ですけども。ほんの少し前まで、海をスイスイ泳いでいたわけじゃないですか。そのものが持ち合わせている力はあると思うんです。葉っぱがシェフになって、奥のほうに持っているうまみ、そのものの香りを引き出していくのかな。」

 

 

「まぁ、話はここら辺にして、食べましょう。デザートのバナナをどうぞ。」

 

バナナと葉っぱ

 

<お店の情報>

葉っぱがシェフ

住所 三重県尾鷲市 中村町4−51

電話 0597-23-0016

営業時間 11:30-14:00/18:00~21:00

営業日:土日祝休み 月-金は前日までに予約ください/席数:16席/駐車場:

7台/尾鷲北ICから車で5分。尾鷲駅から車で10分

 

(写真と文 大越元)

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