<尾鷲よいとこ定食の店>
このコラムは、漁港の町で地魚料理を味わう冊子 「尾鷲よいとこ定食の店」との連動企画です。夢古道おわせ支配人の伊東将志(いとうまさし)と、「尾鷲よいとこ定食の店」掲載店を訪ねて回ります。
第3回目は、豆狸さんを訪ねました。店名は“まめだ”と読みます。今回は、よいとこ定食の“海鮮ユッケ丼”にくわえ、夜のメニューも一部紹介。
<豆狸の海鮮ユッケ丼>
ブリ、ヨコワ(クロマグロの稚魚)、アジ、イカ、地ダコ、イクラ、ウニ。
「980円でいいんですか?」思わず、聞いてしまいました。
この日の豆狸さんのよいとこ定食は、旬魚の海鮮ユッケ丼。
「香辛料が素材の味を消してしまうのでは…?」と思ったけれど、むしろ逆。コチュジャンとごま油の効いた特製たれが、魚にからみます。バランスが妙。
ご主人曰く「ランチのお客さんは、ほとんどユッケ丼だね」とのこと。香辛料が苦手な人やお子さんには、海鮮丼をどうぞ。
豆狸さんは、尾鷲駅から徒歩5分。商店街から路地へ入ったところにあります。店名に狸(たぬき)を入れた由来は、“他(た)を抜く”ことから。
「でも、大狸では大それているんじゃないか。謙虚さは持ちつつ、ちゃんと周りを抜くほどに繁盛してほしい。そう願って、豆狸(まめだ)にしたんです」
ご主人は、20歳のころに庖丁を握りはじめました。京都へ料理修業へ。28歳ではじめた豆狸は、昨年45周年を迎えました。現在は夫婦で営まれています。
尾鷲に来れば、魚はおいしくて当たり前。恵まれた素材を、引き立てる調理が豆狸さんの仕事です。ユッケ丼を食べて「次は夜に来ます」というお客さんも多いそう。
ユッケ丼を平らげたあとで、ご主人に聞いてみる。
今、魚の旬はなんですか?
「伊勢志摩の“あのりふぐ”。それから、尾鷲のブリですね。水揚げ後、2日ほど寝かせた腹の身を出します。特製の出汁を合わせて、しゃぶしゃぶにしてね」
「きょうは今日で、4キロ越えのキツネが入ったよ。これもいい」
キツネ?
「ハガツオとも言います。しゅっとした顔つきから、キツネガツオと呼ばれるんですよ」
食べてみたい、と思わず口走る。
冷蔵庫から現れたのは、キツネガツオの雄節(おぶし・背側の肉)。それはきれいな赤身に、ご主人の庖丁が入っていく。
「どうぞ」。
一切れ目はわさびもつけず、醤油のみでいただいた。不思議なことに、海を泳ぐハガツオの姿が目に浮かぶ。ずっと噛みしめていたくなる。
ここで「明日になれば、もう一段おいしくなりますよ」とご主人。
「魚はたいてい、獲れたてがおいしいもの。けれどブリやハガツオは、少し寝かせることで、より味が引き出されるんです」
ここで伊東さん。
「肉でいうところの“熟成”ですか」
「ただ、魚はいつでも獲れるものじゃないから。今日しか食べられない魚があるということですよね」
ランチの際、ご主人の手が空いているようでしたら“今日の魚”を聞いてみてください。海鮮ユッケ丼がお手ごろな分、もう一品いただくのも一案。もちろん、夜に訪れるのも歓迎です。
<お店の情報>
住所 三重県尾鷲市栄町5-37
電話 0597-22-1166
営業時間 11:00-14:00/17:00~22:00
営業日:不定休/席数:50席/駐車場:3台/尾鷲北ICから車で7分。尾鷲駅から徒歩5分
(写真と文 大越元)