尾鷲よいとこ定食の店vol.7(洋風居酒屋 オン・ジュアン)

<尾鷲よいとこ定食の店>

このコラムは、漁港の町で地魚料理を味わう冊子 「尾鷲よいとこ定食の店」との連動企画です。「尾鷲よいとこ定食の店」掲載店を訪ねて回ります。

第7回目は、尾鷲駅から歩いて1分の「オン・ジュアン」さんを訪ねました。

 

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「育つ水で海老は変わります。独特のくさみがニガテという人には、尾鷲で海老を食べてみてほしい。全然違いますから」

 

東京にいた頃、スーパーで見かける海老といえば、インドネシア産のブラックタイガー(ウシ海老)でした。それもそのはず。国産の海老は消費量の8%。うち、天然ものは3割にとどまる。

 

トロール(底引き)網漁を行う尾鷲の海では、テナガ海老、オニ海老、ウチワ海老、ガス海老、クモ海老… 少量多品種の海老が水揚げされます。

 

地元で食べられることの多い海老を、食べてみませんか。

 

ここ、オン・ジュアンのよいとこ定食は、「クモ海老のトマトクリームパスタ」(税別850円)です。オオコシマガリ海老という別名の通り、大きく腰が曲がっています。

 

<オン・ジュアンのクモ海老のトマトクリームパスタ>

「この場所で店をはじめるとは思っていなかったよ」。
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今から約45年前。高校生だった川窪一壽(かわくぼ かずとし)さんは、店の前の道路を舗装した思い出がある。

 

51歳でオン・ジュアンをはじめるまで、様々な仕事を経験してきた。

 

高校を卒業すると、東京の大学へ。卒業後は高知県で1年間の農業研修。尾鷲市矢浜(やのはま)で新規就農して以来、尾鷲で暮らしている。

 

「尾鷲大好きですからね。海も山も、すぐ行けるじゃないですか」

 

8年間の農家生活は、販路開拓に苦戦する日々だったと振り返る。インターネットもなかった時代に、農家として家族を養うことがむずかしかったという。その後、会社勤めを経て「洋風居酒屋オン・ジュアン」をオープンした。

 

原点は、学生時代に東京で食べたボンゴレロッソ(あさりのトマトソース)。

 

「当時の尾鷲では、パスタと言えばナポリタンとミートソース。『パスタってこういうもんなんや!』とびっくりしましたよね」。

 

パスタは、アーリオ・オーリオ(ガーリックオイル)とトマトソースを中心に、20種類以上。ガス海老とアスパラのクリームパスタ、虎の尾のペペロンチーノといったメニューも。

 

ここで、気になっていたことをたずねてみる。

 

-店名の由来はなんでしょうか?

 

「尾鷲弁でおっさんを意味する“オンジャン”をもじった言葉です。私、生まれたときから体がおっきくて。幼稚園の先生に『川窪はオンジャンみたいやなぁ』と言われて以来、あだ名なんですよ。ゆっくり言うと、オン・ジュアン」

 

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お客さんは高校生、家族連れから年配の方まで幅広い。お店がオープンする18時台。テーブル席は、パスタとワインをいただく女性客でにぎわう。尾鷲市内を中心に、北は紀北町、南は新宮市から訪れるそう。

 

この日は、はじめに「小イカと大葉のパスタ」をいただいた。

 

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写真を撮るそばから、イカ、ニンニク、大葉が香る。一口いただくと、鷹の爪の辛みがほどよく広がる。

 

「10㎝以下の小イカをつかいます。足が早いので、尾鷲の外にはめったに出回らないんですよ。隠し味は、日本酒。しっかり火を入れることで、ダシがよく出るんです」

 

イカに大葉がよく合いますね。

 

「でしょう。バジルよりも相性がよかったんです」。

 

続けて「クモ海老のトマトクリームパスタ」もいただく。刺身でもおいしいというクモ海老のダシ。自家製のトマトソースと濃厚にからみます。ふっくらとした身もいただく。

 

この日は、最後に自家製スイーツのコーヒーゼリーもいただいた。

 

添えられたのは、イタリアのかき氷“グラニータ”。

 

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「イタリアのシチリア島で、雪の上にレモンと砂糖をかけて食べたのがはじまりといわれています」

 

ゼリーをいただきながら、今後をたずねると。

 

「僕はあと2年でオン・ジュアンから引退するんですよ」

 

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え?閉店ですか?

 

「跡継ぎに、教えています。息子の友だちなんです。『料理が好きでゆくゆくは仕事にしたい』と。昼間は別の仕事に就きながら、手伝っています」

 

「この仕事って、好きな人じゃないと務まらないと思うんです。私の根本にあるのは、いくつになってもおいしいもん食べたいという思い。だから、ねぇ。2年ぐらいのんびりしたら『おにぎり屋はじめました』と、なるかもわかりませんしね」

 

また夜遅うにおいで、と川窪さん。

 

「22時を回ると、カウンターがにぎわいだすから。地元の人はもちろん、磯釣りのあとで毎月立ち寄る人もいる。はじめましての人同士が隣り合って、みんな仲ええなって『今度、一緒に旅行行こか』とか話してる(笑)。面白いですよ。私も大酒飲みながら、しゃべってますよ」

 

-外から訪れた人も?

 

「もちろん歓迎ですよ」

 

<お店の情報>

洋風居酒屋 オン・ジュアン

住所 三重県尾鷲市 野地町10-1

電話 0597-22-4222

営業時間 18:00-24:00

営業日:水曜休み /席数:26席(カウンターとテーブル)/駐車場:無

アクセス:尾鷲北ICから車で4分。尾鷲駅から徒歩1分

 

 

(写真と文 大越元)

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